ドルテグラビル+ラミブジンの2剤治療は導入治療としてもいけるかも
抗HIV治療未導入のHIV感染者(18歳以上,ウイルス量500000コピー未満)に対する,DTG+3TC(2剤治療群)とDTG+TDF/FTC(3剤治療群)の効果を比較した試験.GEMINI-1,GEMINI-2に参加したものが対象.デザインは多施設共同二重盲検化非劣勢試験.主要評価項目は48週後にウイルス抑制(ウイルス量50未満)を達成した対象者の割合.
結果は,ITT解析で2剤治療群は3剤治療群に対してウイルス抑制達成率に関して非劣勢.2剤治療群に比べ,3剤治療群の方が薬剤関連有害事象の頻度が高かった.
**********
維持療法としての2剤治療ではなく,導入治療でもDTG+3TCはそこそこ戦えそうという感じでしょうか.HBVの共感染が無い症例ではアリかもしれませんね.
潜在性結核(LTBI)治療としてのリファンピシン単独投与はアリ?
Four Months of Rifampin or Nine Months of Isoniazid for Latent Tuberculosis in Adults.
現在のLTBI治療はイソニアジド(INH)単独,もしくはリファンピシン(RFP)単独での治療が選択される.INHは6〜9ヶ月間の長期投与が必要となり,アドヒアランスや有害事象などが問題であった.
2018年8月のNEJMに,LTBI治療としてINH9ヶ月とRFP4ヶ月で活動性結核発症予防効果に差があるかを比較したオープンラベルRCTがでている.主要アウトカムは28ヶ月後の活動性結核発症で.非劣勢および優越性の検証を行っている.
結果は,活動性結核予防効果に関してRFP4ヶ月群はINH9ヶ月群に対して非劣勢(優越性は示されず),治療完遂率はRFP4ヶ月群で優位に高く,grade3から5の有害事象はRFP4ヶ月群で優位に少なかった.
**********
今後はLTBI治療に最初からRFPを使う場合も増えてくるかもしれませんね.ただRFPはINHと比べて他剤との薬物相互作用で気にしないといけないことが多いので,そのへんを注意して使う必要があると思います.
グラム染色のハードル
最近は質量分析器の導入により従来より短時間で菌の同定を行うことができるようになりましたが,検体に菌がいるかどうかや菌の形態学的特徴をサクッと観察したい場合であれば,早くて簡便で低コストなグラム染色はもってこいであり,感染症診療においては今なお有用なツールです.
ただ早くて簡便とは言ったものの,細々としたハードルが存在するのも事実です.
1.染色するための環境が必要(結構汚れるので要メンテナンス)
2.検体採取,固定,染色の工程にそれなりにコツが必要
3.1コース(染色から観察まで)最短でも10-15分(忙しい診療の合間にできるか)
1がネックになっている施設,多いんじゃないでしょうか.施設のハード面での問題や,場を共有する他のスタッフの理解も得る必要があります.ただここさえクリアできればほぼハードルを飛び越えたようなもの.
2については,診療科で教育体制が整っているところや院内に自前の細菌検査室があるところであれば教えを請うことができますが,そういった恵まれた施設ばかりではないと思います.がしかし,今や優良な書籍やWEBサイトも多く,勉強に際してそこまで不自由することも無いのではと思います(たしかに,人づてでしか教われない職人技のようなものも存在するとは思うのですが).
グラム染色関連の書籍は結構あるのですが,一つおすすめなのが栄研化学が出している微生物検査ナビ(第2版)です.わりとガチめな書籍なのですが,カラーで見やすく,最初の方に手技の解説ものっています.栄研化学のwebサイトから注文できます.WEBサイトでは,「グラム染色道場」は鉄板です.ブログを書籍化した解説本が今月中に発売されるようなので,それも良さそうですね.
ブログ更新しました。
— G剛O (グラム染色道場主) (@ugougoy) December 12, 2018
ブログを書籍化します https://t.co/zVMQBF0i3d
3に関しては慣れである程度克服できますが,野戦病院の激混み外来で逐一痰や尿のグラム染色をしている余裕は無いかもしれません.他の人の手が借りられない状況ではなおさら.当たり前ですが,グラム染色があたえる情報には限界があるので,原理主義的にやたらめったら染色を行って自身が消耗するのは本末転倒です.たとえば染色によって抗菌薬の処方の有無や選択のプラクティスが変わりうるような状況など,適切なタイミングで使用できるのが理想ですね.
CDI発症者のトキシン濃度はキャリアのそれよりも高いのか
Comparison of Clostridioides difficile Stool Toxin Concentrations in Adults With Symptomatic Infection and Asymptomatic Carriage Using an Ultrasensitive Quantitative Immunoassay
Clin Infec Dis 2019. https://doi.org/10.1093/cid/ciy415
クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)を発症している人と,発症はしていないけどクロストリジウム・ディフィシルのキャリアになっている人とでトキシンの濃度は異なるのか,というクエスチョンに答えるスタディ.発症者群,キャリア群のどちらの患者も培養か核酸増幅検査(NAAT)でCDや毒素遺伝子の存在が証明されています.
細かい測定の方法などはさっぱりわかりませんが,ざっくりな結果としては,
・両群でカットオフ値(20 pg/mL)を上回る濃度のトキシンを持つ患者の割合に明らかな差なし
・濃度の中央値も両群で明らかな差なし(ただし全体的に濃度のばらつきがかなりあった,0 pg/mL to >100000 pg/mL)
・検出可能レベルのトキシンを認めた患者に限定すると,発症群で優位にトキシン濃度が高かった
とのこと.
発症群のcriteriaが「CDの存在が証明されていて下痢をしていてCDとしての治療を受けた人」となっており,つまりトキシン陰性者(毒素遺伝子の方ではなく検出できるレベルのトキシン量を持たないものという意味,ややこしいですね)のCDI発症者もいたことになります.実はこの群には下痢が別の原因で起きていたけどCDが証明されてCDIとして治療を受けていたから発症者群にくくられてしまった人(≒本来キャリア群に入るはずだった人)もいたかもしれず,そのへんも結果に関係していたりするのでしょうか.
それはそうと,アネメトロの供給停止,はやく解決しないですかね….
結局HIV治療は単剤でいけるのか
抗HIV療法の基本は多剤併用(基本的に3剤以上の併用)だが,多剤併用療法でコントロールが良好な患者に対する維持療法としてドルテグラビル(DTG)+リルピビリン(RPV)やDTG+ラミブジン(3TC)などの2剤療法の有効性が示されている[1,2].これらは,HIV治療薬のなかで比較的有害事象の多い(といっても昔のdドラッグやジドブジンなどと比べずいぶんマシになっているが)核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)を避ける(減らす)ことができるという点で意義がある.
ドルテグラビルが強すぎるために2剤での治療でも可能(かもしれない)とみることもできるが,さすがにそのドルテグラビルをもってしても単独での維持療法はダメらしい[3,4].ただこれまでのDTG単剤療法のstudyは,HIV感染から時間が経過した段階(chronic infection)でHIV療法を開始した患者を対象としたものであった.
今回新たに,HIV感染後早期の段階(primary HIV infection)でHIV療法を開始した患者を対象にDTG単独維持療法の効果を評価したstudyがでた[5].感染後早期に治療をした患者では,慢性感染状態で治療を開始するよりもlatent reservoirやviral diversityが少ないことが知られている(つまり,この集団に対してはメンテナンスとしての単独治療はいけるのでは?という流れ).パイロットスタディではあるものの,その結果によれば多剤併用療法からDTG単独に切り替えた群の成績は多剤併用療法を継続した群に対して非劣勢であった(主要アウトカム:48週後のウイルス抑制 [<50 copies/mL]達成率).
よりシンプルな治療のオプションを残すという意味でも,HIV早期治療は待ったなしか.
1. Lancet 2018; 391(10123): 839-49.
2. J Antimicrob Chemother 2018 [Epub ahead of print]. PMID: 30476165.
3. J Antimicrob Chemother 2018;73(7):1965-71. PMID: 29608685.
4. Clin Infec Dis 2019 [Epub ahead of print]. https://doi.org/10.1093/cid/ciy1132
5. Clin Infec Dis 2019 [Epub ahead of print]. https://doi.org/10.1093/cid/ciy1131
Clostridium difficile感染症ガイドライン 2017 (IDSA/SHEA)
Clin Infect Dis. 2018;336:1049–48.
(全文フリー)
CDIのIDSA/SHEAガイドラインが出ました.(どうでも良いですが,CDIだったりCDADだったりCD腸炎だったりいろんな表現の仕方をされていてややこしいですね,ここではCDIで統一します)
ツイッターでも(一部で)話題になっていましたが,今回の改定で大きいのはinitial therapyでバンコマイシンとフィダキソマイシンが第一選択となり,メトロニダゾールがalternativeに降格したことです.
詳しくはガイドライン中に記載されていますが,2000年以降にでたRCT(CID 2007, PMID 17599306; CID 2014, PMID 24799326)や観察研究(doi: 10.1097/IPC.
メトロニダゾールは長期使用での脳症の問題もあり,これからはあえてメトロで治療開始することはなくなりそうです.
黄色ブドウ球菌菌血症の治療にリファンピシンを追加しても明らかなbenefitはない
(absolute risk di erence –1·4%, 95% CI –7·0 to 4·3; hazard ratio 0·96, 0·68–1·35, p=0·81).両群とも重篤な有害事象の頻度に差は無かったものの,抗菌薬関連の有害事象や相互作用が問題となった参加者はRFP群のほうが多いという結果でした.
これらをみると,RFP追加のメリットはほぼなさそう(HR推定値ほぼイチ)であり,むしろ併用することで有害事象が増えるかもという印象であり,これは現場感覚からも乖離しないと考えます.
私は,もともとブ菌菌血症というだけでRFP併用をすることはなかったので,正直なところ「ま,そうだろうなぁ」という感じでしたね.
いやでもこのスケール,すごいですね.Lancetに載るのも納得です.